朝起きたら、耳が聞こえなくなっていました。4~5年程前のことです。

大変動揺しました。耳の治療は迅速な対応が大事だと調べて、急いで病院に行きました。

 

もともと秋になると体調を崩しやすかったのですが、こんなことになるとは。病院ではめまいをこらえて3時間ほど待ちました。診断の結果は突発性難聴。当時の健康状態から出せる薬はないと言われ、途方にくれて、うちに帰って昏々と眠りました。

 

目が覚めるともう夕方。こんなことではいけないと近所のスーパーに出かけました。

音の無い世界は恐ろしいものです。後ろから走って来る自転車にぶつかりそうになったり、お店の通路でふらついて人に迷惑をかけたり。すぐに食べられそうなものだけ買って、お会計を済ませました。

 

帰りは来た時と反対側の道を歩きました。いつも通っている道のことです。

いい香りがしました。ああ、これは…。金木犀の香り。

昨日は香りがしなかったのに。急に咲き始めたのでしょうか。

聴覚が失われた分、他の感覚が過敏になっていたせいもあるのかもしれないと後から思いました。

 

金木犀の香りをかいだ私は、不安と悲しみをそっとなでられたような気持ちになって、泣きたくなりました。我慢しなくていいよと言われたような…。あの感覚はなんだったのでしょう。

 

金木犀の甘い香りには、リラックス効果があると言われています。

不安や緊張、イライラを感じている心をほぐし、落ち着かせる効果が期待できます。

高価ですが精油も存在し、レモングラスやローズ、ラベンダーと相性がいいようです。

 

 

翌日別の病院で薬を処方してもらい、二週間程で聴力を取り戻しました。

私はこの経験を通して、自分の中の聞こえて当たり前というおごりに気づかされました。

 

 

今はちょうどフレッシュな金木犀の香りを存分に楽しめる季節。

センチメンタルかつ、癒され包まれるような感覚をあと数日私は味わうでしょう。